大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1124号 判決

上告人

熊谷輝夫

右訴訟代理人

馬淵分也

被上告人

藤谷康子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人馬淵分也の上告理由第一点について<省略>

同第二点について。

原判決によれば、原審は、上告人の結納金返還請求につき、所論の如き判示をしたのではなく、結納は、婚約の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与であるから、本件の如く挙式後八カ月余も夫婦生活を続け、その間婚姻の届出も完了し、法律上の婚姻が成立した場合においては、すでに結納授受の目的を達したのであつて、たとい、その後結納の受領者たる被上告人からの申出により協議離婚をするに至つたとしても、被上告人には、右結納を返還すべき義務はないと解すべきであり、これと異なる慣習の存在することを認むべき資料もないから、上告人の結納金返還の請求は失当であると判断したのであつて、原審の右判断は正当である。また、元来、離婚は婚姻の効果を将来に向つて消滅させることを目的とする行為であつて、本件の如く被上告人の申出による協議離婚の場合といえども所論の如き遡及的な原状回復ということはあり得ないから、民法五四五条に関する論旨は、独自の見解であつて採用の限りではない。原判決(その引用する第一審判決を含む。)には何ら所論の如き違法のかどは見出せない。論旨はすべて理由がない。

同第三点について。<省略>

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之助 城戸芳彦 石田和外)

上告人馬渕分也の上告理由

第一点<省略>

第二点 原審判決は民事訴訟法第三九四条中判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背がある。

原審判決は民法第五四五条に違背せる違法があるのでありますこの法条は「当事者の一方が其解除権を行使したるときは各当事者は其相手方を原状に復せしむる義務を負ふ」と規定しているのであります本件婚姻契約は各当事者の一生を婚姻同棲相互扶助する契約であります然るに原審判決が「本件婚姻は挙式後八カ月余も夫婦生活を続けその間婚姻の届出を完了し法律上の婚姻が成立した場合においてはすでにその目的を達したのであつて(中略)被控訴人は右結納金を返還すべき義務はないと解すべきであり」と判断せるは

(1) 婚姻契約は八ケ月の履行でその目的を達したものと解せること

(2) 結納金は婚姻の完全履行を契約の要件として贈与せること但しこの贈与とは原審の一方的判断であつて被控訴人の主張でないこと

(3) 結納金の異なる慣習の存在性の立証なく原審裁判官が当事者の申立のない事実の判断をなせること

等の違法があります。

次で右結納金を含めた原状回復費用の請求権金十五万九千三百八十円を排除せるは契約解除せる被控訴人の義務履行民法第五四五条の原状回復義務履行の規定に違背せる違法がある。

第三点<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例